目的を達成した私は、ゆっくりとバンコクへと帰ることにした。
行きはバスで賑やかに向かったが、帰り道は少し落ち着いた雰囲気で旅を締めくくりたかったので、電車にしようと決めた。
駅に向かう道中、時間は昼を回り、朝の熱気が少し和らいできたようにも感じる。
少し汗を拭いながら足を進め、簡素なつくりの駅に到着。
駅には人もまばらで、どこかのんびりした空気が漂っている。
チケットカウンターには、現地の人たちが並んでいて、私もその列に加わった。
何度も何度も「バンコク!バンコク!」と繰り返しながら、マダムに確認を重ねてチケットを購入。これで一安心だ。
チケットを片手にホームへ進むと、そこはフェンスも仕切りもないむき出しのホーム。線路の上も歩き放題。日本じゃ考えられないね。
今にも列車が到着しそうな静寂の中、夕暮れと共に列車を待つ人々の姿がなんとも穏やかだった。
空気は穏やかで、日が傾く時間帯特有の温かみが辺りを包んでいる。
当然のように、列車は定刻を過ぎても到着しない。
しかし、この時ばかりはそれが心底嬉しく思えた。
日本のようにピタッと時間通りに運行することはないが、イメージ通りの海外らしいこの緩やかさが心に染みて、焦りや不満は感じなかった。いつもこのくらいの余裕をもって生きていたいなぁ。
そこへタイミング良く、ビールの売り子がやってきた。
まるでこれを待っていたかのように1本購入し、緩やかな時間をアテにビールをゆっくりと楽しむ。
この瞬間、ただ単純にこの場所とこの時間を味わっている自分がいて、これはなんとも言えない贅沢だ。
目の前には最高の景色、完璧な気候、そして軽い酔いと共に心も身体もリラックスできた最高のひとときが流れている。
すべての条件が整い、この時間が何ともいえない幸福感で満たされていた。まさに、これこそが冒険の醍醐味だ。
そうこうしているうちに、のんびりとした列車がホームに到着。
ビールを飲み干し、穏やかな気持ちのまま列車に乗り込み、夕暮れに染まる風景を眺めながら、うつらうつらとしながら静かにバンコクへと帰路についた。